飛行機に搭乗すると、離陸前のタキシング(滑走路までの移動)の時間帯に不思議と眠くなるという経験をしたことがある人は少なくありません。タキシング中、機内の環境や状況がもたらす影響は、まるで心地よい催眠術にかけられたかのような感覚を引き起こします。この記事では、なぜ飛行機のタキシング時に眠くなるのか、その原因について探っていきます。
目次
1. タキシングとは何か
まずは、タキシングの基本を理解しましょう。タキシング(taxiing)とは、飛行機が離陸または着陸後、滑走路までの移動や駐機場までの移動を行う際の地上走行を指します。エンジンの力を借りて、パイロットが地上での操作を行うため、車で言えば「ゆっくり進むアイドリング状態」に似ています。この間、飛行機は離陸のための準備を整えたり、管制塔との連絡を取り合いながら順番を待ったりします。
2. なぜタキシング中に眠くなるのか?― その原因
タキシング中に眠くなるのは、いくつかの要因が複合的に働いているためです。これらの要因は、人間の生理的な反応や心理的な影響を引き起こし、結果的に眠気を誘発します。
(1) 振動とリズム
タキシング中、飛行機は地上を滑らかに移動します。この際、タイヤが滑走路やタキシングウェイの表面を軽く転がるため、小刻みな振動が機体全体に伝わります。このような低周波の振動は、人の体にリラックス効果をもたらし、眠気を誘発することが知られています。これは、列車や車での長距離移動中にも感じる眠気に似ています。ゆったりとした振動やリズムが体を揺らすと、副交感神経が優位に働き、心拍数や呼吸がゆっくりとなり、体が睡眠モードに入っていきます。
(2) 白いノイズ(エンジン音)
飛行機のエンジン音や空調音は、いわゆる「白いノイズ」として機能します。白いノイズは、一定の音量と周波数で持続的に聞こえる音で、無意識のうちに周囲の雑音をかき消し、静けさを感じさせる効果があります。この音の持続性が、脳をリラックスさせ、眠気を誘発することがわかっています。飛行機のエンジン音は、特に低周波の成分を多く含んでいるため、心地よい揺らぎを感じる人も多いのです。
(3) 圧力と酸素レベルの変化
機内の空気圧や酸素レベルも、眠気の原因として挙げられます。飛行機は地上にいる時でもキャビンプレッシャーが若干低いため、酸素がわずかに少なくなっています。これは、低酸素症の初期症状と似た軽い眠気を引き起こします。特に離陸前の準備段階では、体が酸素の減少に適応しようとする過程で疲労感が生じることがあり、その結果として眠気が強まることがあります。
(4) 気圧の変化による生理的影響
タキシング中、飛行機内の気圧は離陸時に備えて徐々に調整されます。この気圧の変動も体に影響を及ぼし、眠気の一因となります。気圧の変化は、自律神経に影響を与えることが知られており、この変動に適応しようとする体の反応として、疲労感や眠気が生じることがあります。
(5) 光と温度
タキシング中、飛行機内の照明は通常、落ち着いたトーンに設定されています。明るい光よりも暗めの照明の方がリラックス効果が高く、体内時計が夜を感じ取るため、自然と睡眠モードに切り替わります。また、機内の温度も安定しており、冷暖房が適度に効いているため、快適な環境が整っています。特に、飛行機内の空気はやや乾燥しているため、体がリラックスしやすく、結果的に眠気を感じやすくなります。
(6) 心理的要因 ― 安心感と緊張の緩和
タキシング中は、飛行機が滑走路へ向かってゆっくりと進んでいる状態です。乗客にとっては、これから長時間のフライトに備えて「一息つける時間」でもあります。搭乗後の緊張や焦りが収まり、心理的な安心感が生じることで、体がリラックスモードに入ります。この安心感が眠気を促進する要因となるのです。
(7) 期待と準備のギャップ
タキシングの時間は、離陸前の準備段階です。多くの人は、飛行機に乗る前に空港での手続きや待ち時間、荷物の整理などで精神的に少なからず疲労を感じています。そして、機内に座るとその緊張感が解放され、少しの間「何もすることがない」状態になります。このギャップが体に一種の脱力感を与え、自然と眠気が誘発されます。
3. 他の移動手段と比較したタキシング時の眠気
飛行機だけでなく、列車やバス、船でも移動中に眠気を感じることがあります。これらの交通手段でも、低周波の振動やエンジン音、一定のリズム、そして安心感が共通しているため、似たような現象が起こります。特に、電車の揺れや車のエンジン音が眠気を誘発するのは多くの人が経験したことがあるでしょう。飛行機のタキシングはこれと同様のメカニズムで眠気を引き起こしていますが、飛行機の場合は、気圧や酸素濃度の変化といった他の要因も加わることで、より強い眠気を感じることが多いと考えられます。
4. 眠気を感じない人もいる?
ただし、タキシング中に全員が眠くなるわけではありません。緊張感が強い人や飛行機に対して恐怖心を抱いている人は、逆に覚醒状態になることもあります。また、ビジネスなどでフライトに慣れている人や、出発前に十分な休息を取っている場合は、眠気を感じにくいことがあります。個人差はあるものの、多くの人がタキシング中にリラックスしやすいのは事実です。
5. まとめ
飛行機のタキシング中に眠くなる理由は、低周波の振動、白いノイズ、酸素レベルの低下、気圧の変化、快適な温度や照明、そして心理的な安心感といった、複数の要因が組み合わさっているためです。これらの要因が、私たちの体と心にリラックス効果をもたらし、自然と眠気を誘発します。
飛行機に乗るとき、特に長時間のフライトでは、タキシングの間に少しでも休息を取ることが大切です。機内で眠くなるのは自然な反応であり、これを利用してフライト中に体をリフレッシュさせ、到着後の活動に備えることができます。次回飛行機に乗る際は、タキシング中の眠気を最大限に活用してみましょう
最後までお読みいただきありがとうございました。